【報告】「台風制御が問いかける未来 ~2050年を考える~」@サイエンスアゴラ2026

 

 2026年9月12日、サイエンスアゴラ2026において、東京大学生産技術研究所 松山研究室の企画「台風制御が問いかける未来 ~2050年を考える~」を開催しました。

 

 今回のテーマは、2050年を目指して研究開発が進む「台風制御技術」。台風による災害被害を軽減する可能性を持つ一方で、自然への介入の是非、責任の所在、地域格差、国際的な合意形成など、さまざまな論点を含んでいます。本企画では、これらの論点を「ELSIマップ」として可視化し、参加者が自分の関心に応じて問いをたどりながら、台風制御技術が変えるのは台風だけだろうか?と、わたしたちの生き方と台風制御のあり方について対話しました。

 

 はじめに、東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻の南出将志 特任准教授に、台風制御技術についてご紹介いただいた後、松山研究室の小林知世 学術専門職員が、今回のワークショップで用いるELSIマップの見方を紹介しました。ELSIとは、科学技術が社会にもたらす倫理的・法的・社会的課題のことです。科学技術の可能性だけでなく、その実現によって生じうる課題についても考えることを目指しました。

 

 参加者はELSIマップをじっくり読み、気になったキーワードや問いを、ワークシートに書き込みました。マップには、「台風制御が失敗したら、誰がどのように責任をとるのか?」「誰が台風制御のあり方や実行を決定するか?」「台風の被害感がない社会では技術は必要か?」「防災コストと技術投資をどう配分するか?」といった問いのほか、責任、自然観、情報伝達、安全性など、多様な論点が整理されています。参加者はそれぞれの関心から問いを選び、自分の意見をワークシートに書き込んでいきました。

 

 後半は、ELSIマップにある”社会の決め方”領域の問いを手がかりに、参加者同士で対話を行いました。

 

 「台風制御が失敗したら、誰がどのように責任をとるのか?」という問いでは、台風が持つ不確実性に注目し、開発者だけに責任を負わせるのではなく、個人ができる防災や避難計画なども含めて考える必要があるという意見が出されました。また、台風制御によってある地域の被害が減ったとしても、別の地域に被害が移る可能性があることから、責任や被害の補償は社会全体で考えるべきではないか、という議論も生まれました。

 

 「台風制御のあり方や実行を誰が決定するのか?」という問いからは、国や政府だけでなく、国民や国際的な機関の関わりについても話が広がりました。台風は国境を越えて影響するため、一つの国だけで決めてよいのか。台風による被害や利益の受け止め方は地域によって異なるのではないか。参加者は、自国の利益だけでなく、他国や地球全体への影響を考えながら、合意形成のあり方について意見を交わしました。

 

 「台風の被害感がない社会では、台風制御技術は必要なのか?」という問いでは、台風の被害を減らしたいという思いだけでなく、台風がもたらす雨や水資源などの側面にも目が向けられました。台風が来ないことによって、かえって水不足などの問題が生じる地域もあるのではないか。台風を制御することは、単に災害をなくすこととは違うのではないか。自然との関わり方について、さまざまな視点から考える機会となりました。

 

 最後に「防災コストと技術投資は、どう配分するか?」という問いについて議論しました。既存の防災技術は、これまでの経験や実績を踏まえて被害を減らしてきた一方、台風制御技術は、実現可能性や効果がまだ不確かな段階にあります。参加者からは、台風制御技術を既存の防災技術と同じ「技術投資」として比較するのではなく、将来の災害の芽を摘むことにつながる研究開発への投資として捉える必要があるのではないか、という意見が出されました。目の前の被害を減らすための防災投資と、将来の可能性を探る研究開発への投資。それぞれの性質の違いを踏まえ、どのように資金を配分していくのかを考える機会となりました。

 

 今回のワークショップを通じて、台風制御技術という一つのテーマから、自然との関わり方、社会の決め方、技術の責任、被害と価値の捉え方など、さまざまな方向へ問いを広げることができました。また、技術の実現によって生じる可能性のある問題を考えるだけでなく、既存の防災や社会の仕組み、地域による違いなど、現在の私たちの暮らしにも目を向けることができました。

 

 ELSIマップを用いて問いをたどり、参加者同士の対話を通じて新たな視点に触れた今回の企画。「台風制御技術が実現した2050年の社会」を想像しながら、私たちはどのような未来を望むのか、そしてその未来に向けて何を問い続けるのかを考える時間となりました。

 

(文責:小林知世)

2026年09月12日